1. 技人国とは? 〜外国人採用のスタンダード〜
外国人を正社員として採用する際に、最も多く活用されている在留資格が「技術・人文知識・国際業務(通称:技人国)」です。
エンジニアや経理、法務、マーケティング、翻訳や海外営業など、専門的な知識やスキルを前提とするホワイトカラー職が対象となります。
一方で、飲食店での接客、清掃、倉庫作業といった「専門性のない単純労働」はこの資格では認められません。
企業が外国人採用でよくつまずくのは、この「専門職と単純労働の線引き」です。例えば「営業職」を採用したい場合でも、仕事内容が顧客対応中心なのか、海外事業展開や英語力を活かす提案型営業なのかによって結果が大きく変わるのです。
2. 対象となる職務カテゴリー
技人国は、対象となる業務を「技術」「人文知識」「国際業務」の3分野に大きく分類しています。これを正しく理解することが、最初のステップです。
技術分野(理系職種)
理系の知識や技術を活かす専門職が該当します。
- システム開発やインフラ運用
- 機械・電気・電子・化学分野の設計や研究
- データ分析やAI関連業務
特にITエンジニアは代表例であり、近年の外国人採用でも圧倒的に多い職務です。実務経験ルート(3年以上)でも認められることがあり、学歴が直接一致しない場合でも門戸が開かれています。
人文知識分野(文系職種)
文系の専門知識を活用する業務がここに含まれます。
- 経営企画、総務、人事、法務、経理
- マーケティング、コンサルティング
注意点は「総合職」という表現です。日本企業では馴染み深い採用区分ですが、入管審査では「専門性が不明確」とされがちです。具体的にどの部署で、どのような専門業務を行うのかを明確化する必要があります。
国際業務分野(外国語を活用する職務)
外国語能力を中心に活かす業務が該当します。
- 翻訳・通訳
- 海外営業、貿易実務
- 外国語を活用した渉外や広報
ただし「外国語を話せるから対象になる」という誤解は危険です。電話対応や観光ガイドといった単純業務は対象外であり、専門性のある業務内容と一体で初めて認められることに留意してください。
3. 許可を受けるための審査ポイント
入管は申請を審査する際、特に以下の3点を重視します。この理解が不十分だと補正や不許可につながるため、企業としても明確に準備しておくことが必要です。
(1) 学歴または実務経験
申請人がその職務を遂行するに足る知識や技能を持っているかを判断されます。
- 大学・短大・専門学校で学んだ専攻と職務内容が関連していること
- 実務経験ルートは原則10年以上。ただしIT分野は3年以上で認められる特例があります
実務上の注意点
- 「専攻と無関係な職務」は不許可の典型例です。例:経済学部卒をプログラマーに採用
- しかし履修科目や卒論テーマなどで関連性を補強できれば認められることもあります
- 単なる学歴証明書だけでなく、成績証明書や実務経歴証明を添付すると説得力が増します
(2) 職務内容の専門性
「単純作業ではなく、専門性を持った業務であるか」が最大の審査ポイントです。
- 職務記述書(Job Description)の記載が不十分だと補正になる可能性が高い
- 特に「営業」「事務」とだけ書いた場合、入管は専門性を認めにくい
実務上の注意点
- 補正で最も多いのは「業務内容が抽象的」という指摘です
- 「どの製品を扱うか」「どの言語やツールを使うか」「全体業務のうちどの割合が専門業務か」を明記することで、専門性が客観的に示せます
(3) 処遇の適正性
外国人だからといって不利な待遇で雇用されていないかが確認されます。
- 日本人と同等以上の給与水準
- 社会保険・労働保険への適切な加入
実務上の注意点
- 社会保険未加入は最も多い不許可理由のひとつです。会社の信頼性自体を疑われる要因になります
- 可能であれば「社会保険適用事業所番号通知書」や「保険料納付証明書」を添付すると安心です
4. 手続きの種類と流れ
採用のシチュエーションによって必要な手続きが変わります。
- 在留資格認定証明書交付申請(COE)
海外から新規で人材を呼ぶ場合に必要です。会社概要書、雇用契約書、決算書などが主な提出資料となります。 - 在留資格変更申請
留学生や家族滞在者など、国内に在留している人を採用する際に必要です。アルバイト歴が多い留学生の場合、実態調査が入ることもあります。 - 在留期間更新申請
すでに「技人国」で就労している人を継続雇用する場合に必要です。更新時には、雇用条件に変更がないかを重点的にチェックされます。配置転換や給与減額がある場合は注意が必要です。
審査期間はおおむね1〜3か月ですが、繁忙期の東京入管ではさらに長期化する傾向があります。採用スケジュールは逆算して早めに進めることが大切です。
5. 不許可になりやすい事例と対応策
事例1:専攻と無関係な配属
- 経済学部卒をプログラマーに採用 → 関連性なしとされ不許可
- 対応策:履修科目(情報処理関連)や研究テーマを証拠に出し、関連性を説明
事例2:職務内容が曖昧
- 契約書に「営業」とのみ記載 → 単純労働と見なされる
- 対応策:取扱製品、使用言語、業務割合を具体的に記載
事例3:会社体制の不備
- 社会保険未加入や決算書の不備 → 信頼性欠如と判断
- 対応策:社会保険加入済であることを証明する資料や、会社概要資料を整備
実務のポイント
入管は「その人材が必要な理由」と「会社が受け入れられる体制」を総合的に見ています。形式的に書類を揃えるだけでなく、背景事情を文章で補強することが有効です。
6. 採用企業が準備すべきこと
企業側で準備すべき資料や整備ポイントは次のとおりです。
- 職務記述書を詳細に作成(業務の割合、必要スキル、使用ツールを明示)
- 雇用契約書に適正な条件を明記(給与・勤務時間・勤務地など)
- 学歴や実務経験と職務の関連性を説明できる補足資料を用意
- 社会保険・労働保険に加入し、証明資料を提示できる状態にする
- 採用理由書を作成し「なぜ外国人材が必要なのか」を論理的に説明する
これらを満たすことで、申請全体の信頼性が高まり、許可率も向上します。
7. よくある質問(FAQ)
Q. 新卒でも取得できますか?
A. はい。専攻と職務の関連性があれば可能です。特に情報系学部出身者をITエンジニアとして採用するケースは典型的です。
Q. 日本語力はどの程度必要ですか?
A. 法律で一律の基準はありません。ただし実務では、業務に必要な日本語力を企業が説明できることが重視されます。
Q. 転職する場合の注意点は?
A. 同種業務であれば資格変更は不要ですが、14日以内の届出が必要です。大きく職務内容が変わる場合は資格変更を検討すべきです。
Q. 家族を呼ぶことはできますか?
A. 一定の収入や住居条件を満たせば「家族滞在」で帯同が可能です。申請時には家族の生活基盤を証明できることが求められます。
8. まとめ
「技人国」は外国人ホワイトカラー採用の中核的な在留資格です。しかし実務では、
- 学歴と職務の関連性が不十分
- 職務内容が不明確
- 会社の体制が未整備
といった理由で不許可になるケースが多くあります。
採用企業が成功させるためには、
- 職務の専門性を客観的に示すこと
- 学歴や経験との関連性を論理的に立証すること
- 会社としての受け入れ体制を整えること
この三本柱を意識した準備が不可欠です。
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