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【事案紹介】特定技能外食業から国際業務へ「既にやっているから大丈夫」の落とし穴

近年、観光需要の回復に伴い、外国人観光客の来訪が急増しています。
飲食業界でも多言語対応や文化的配慮が欠かせなくなり、
企業から「外国人のお客様への対応力を高めたい」という相談を受ける機会が増えています。

本件もその一つ。
インバウンドエリアに新規展開する飲食企業が、現地他企業における特定技能(外食分野)で勤務していた外国人スタッフを“国際業務担当者”として転職採用し、在留資格を「技術・人文知識・国際業務」へ変更することを検討していました。

本人も企業も、当初はこう考えていました。

「これまで外国語で接客をしてきたので、
今度は“国際業務”として申請しても問題ないだろう。」

確かに、経験は豊富で、実務能力にも高い評価がありました。
しかし、在留資格の判断は「経験の量」ではなく、
その業務が法令上の要件にどのように当てはまるかが焦点となります。

経験が常に不利なわけではない。ただし本件はあくまで「特定技能の範囲内」である

入管実務において、「経験のアピール」は決して否定されるものではありません。
過去の職務が資格の本旨に沿うものであれば、有効な裏付けとなります。

しかし本件の場合、特定技能としての実務内容は
現場での接客や補助的な翻訳作業など、資格上“現場作業”に分類される業務が中心と評価されます。

そのため、この経験を「国際業務としての専門性」として強調してしまうと、
要件に不適合であるのみならず、かえって「当時の活動が特定技能の範囲を逸脱していたのではないか」という誤解すら招くおそれがありました。

弊所はその点を丁寧に説明しました。

「今回の場合は、経験を押し出すよりも、
学んできた知識とこれから行う仕事のつながりや専門性を中心に説明した方が得策です。」

専門性を「学び」と「仕事」でつなぐ

ここで本人のキャリアを棚卸すると、過去、文化・国際系の専門課程を修了しており、
翻訳・通訳、異文化理解・コミュニケーション、日本文化などを体系的に学んでいることが発覚しました。

一方、新しい職場での予定業務には、

  • 店舗マニュアルや社内資料の翻訳・通訳
  • 外国人スタッフへの教育・研修
  • SNSなどを通じた多言語での広報
    など、学んだ内容を実際に活かす業務が含まれていました。

これらを踏まえ、申請の中心を「学歴と予定業務の関係性」に置き換えました。

区分主な内容評価
転職前(特定技能)接客・配膳・翻訳補助など、現場中心の補助業務特定技能の範囲内(専門性の裏付けにはならない)
転職後(技人国)翻訳・通訳、教育、広報、多言語資料作成等学歴に基づく専門性を活かす業務として該当

修正後の理由書では、
「学んだ知識をどう仕事で発揮するか」という点を明確に示しました。
企業担当者も、「説明の方向を変えただけで、国際人材としてキャリアアップしていくという説得力が全く違いますね」と話されていました。

結果:補正・照会なしで許可

申請から約2か月。
追加資料の要請や照会もなく、在留資格変更が許可されました。

企業側からは、
「最初は“経験を強調すべき”と思っていたが、
法的な観点から見れば必ずしもそうでないというのは盲点だった。インバウンド需要に対する中核人材を円滑に起用できて安心した」との感想をいただきました。

所見

本件のポイントは、
「予定業務に専門性が求められる以上、それを何で裏付けるか」という判断にあります。

経験を重視すべきケースもあれば、
本件のように特定技能での実務経験が資格範囲内の補助的作業にとどまる(はずである)場合には、学歴を根拠に資格変更後の予定業務の専門性を訴求する方が有効です。

在留資格の審査では、無暗に経験を強調するのではなく、
法的整合からどの要素を主軸に据えるかを見極めることが重要です。

まとめ

観点不適切な方向適切な方向
アピールの軸特定技能での実務経験を中心に説明学歴と予定業務の関係性や専門性を重視
専門性の示し方現場経験に依拠学びと業務のつながりを明確化
結果資格逸脱の疑義許可(照会・補正なし)

結び

本件は、インバウンド対応という社会的要請の中で、
特定技能(外食業)からより専門性の高い職務へ移行するにあたり、
「経験」ではなく「学歴」と「予定業務」を中心に説明を組み立てたことで、
スムーズに許可に至った事例です。

国際業務の申請は、時として“何をやってきたか”よりも、法の核心を捉え
“どんな知識を基に、これから何をするか”をどう伝えるかで結果が変わります。

特定技能から技人国への変更をご検討の方は、
それぞれのケースに応じて最も適切な説明軸を整理することが大切です。
専門家として、最適なアプローチをご提案いたします。


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